『ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」』
ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)
- 作者: 伊藤章治
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/01
- メディア: 新書
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大層評判がいいので買ってみたけど、個人的にはそれほどにも感じなかった。
確かに「ジャガイモ」を軸に世界史を見てみるという視点は面白いけれど(コメ、ムギ、銅、錫、鉄、石油が主題でも面白いのが書けそうだ)、脱線と情緒的な叙述が多すぎる。確かに銅山開発の公害は悲惨なものだったけれど、それを今の視点で断罪するやり方も、個人的には気に入らない。当時は当時の事情がある。当然反省はすべきだが、特定の誰かに罪を着せ、その寂しい死に方をあげつらってよいものだろうか。
よく見てみると著者はジャーナリストさんらしい。歴史家の本だと思って買うと、ちょっと残念なことになると思う。
さて、ジャガイモは割と最近になって世界史デビューした食べ物だ。そのせいか、伝播経路もその時期も比較的明らかなのが面白いなと個人的に感じた。
伝播の過程で一番期待されたのは、まず救荒作物としての役割だ。ジャガイモは寒冷地でもよく育ち、栄養価も高い。ジャガイモがなければ、北海道の開拓民やアイルランドの貧農はもっと厳しい暮らしを強いられただろう。
ついで期待されたのが、軍隊の食糧としてだ。日本のことはよくわからないが、ロシアやドイツでは大いに活用され、ときには武力を用いた強制的な普及も行われたらしい。よく考えれば僕たちがいつも食べているジャガイモは品種改良された生産性と味のよいもので、普及機のジャガイモは決してそうではなかったはず。キリスト教の因習もあり、初期はジャガイモを忌避する動きも少なからずあったらしい。
このようにジャガイモは非常に優秀な食べ物だが、けっして万能ではない。とくに病気に弱いところは割と致命的で、対策をしていないと飢饉を招くことすらある。よく知られているのはアイルランドのジャガイモ飢饉で、これは本書でも軽く触れられている(ブリカスの四大悪事の一つやな)。このときの移民という名の難民の末裔に、かのケネディ家がいることも有名だね。
そんなこんなで、日本でもタネイモは割と厳重に管理されているらしい。
農業生産の安定を図るため、種苗の健全性が収穫に大きく影響を及ぼす作物については、国が指定種苗として指定し検疫を行っています。
指定種苗は、植物防疫官が毎年栽培中に病害虫の検査を行い、この検査に合格しないと種苗として移動することができません。
現在、指定種苗には馬鈴しょ(ジャガイモ)が指定されています。馬鈴しょの検査は、北海道、青森県、岩手県、福島県、群馬県、山梨県、長野県、岡山県、広島県、長崎県及び熊本県において、ジャガイモシストセンチュウ及びジャガイモガの2種類の害虫と馬鈴しょウイルス、輪腐病菌、青枯病菌、そうか病菌、粉状そうか病菌、黒あざ病菌及び疫病菌の7種類の病気を対象にして行っています。
国内種苗の検査について:植物防疫所
いつなんぞサバイバルしなきゃいけないことになるかわからないし、連作はしちゃいけない、温暖地では二毛作も可能だけど病気にかかりやすくなるなんてことも知っておいた方がいいのかもしれない。