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序の部分を読んでみたけど、割と面白かったので戯れに調べてみた。諸子百家や史書の故事ならいざ知らず、詩のことはほとんど知らないな……今度読んでみようかと思う。
夫唐、虞之世,結繩而足治,屈指而足算。
唐:陶唐氏、堯。古の聖人。皇帝。
虞:有虞氏、舜。堯から禅譲され、四海を治めた聖人。
結繩:ロープの結び目で数を数えること(『老子』)。インカでもロープの結び目を文字としていた(キープ)。堯舜の時代は、結繩(キープ)があれば世を治めるに充分であったし、指で数えればそれで足りた。
是時豈料百代之後,計算機械之巧,精於公輸之木鳶,善於武侯之流馬
公輸:儒者・公輸盤(こうしゅはん、魯班)のこと。彼の作った木製の鳶(とび)は空を自在に舞ったという。
木鳶:今でいう凧のことらしい。公輸盤はこれに乗ったというけれど、実際には軍事偵察用だったようだ。墨子も作ったことがあり、これに関する寓話がある
武侯之流馬:武侯は諸葛亮のこと(諸葛武侯)。彼は魏を北伐するため、輸送のために木牛流馬を開発したというが、実際にどんなものかは謎
程式語言之多,繁若《天官》之星宿,奇勝《山經》之走獸。鼠、蟹、鑽、魚,或以速稱。蛇、象、駱、犀,各爭文采。
程式(chéng shì):プログラミングのことらしい。
天官:古代中国の官名。周の六官の一つで、国政を総轄し、宮中事務をつかさどった(コトバンク)。“《》”で括ってあるので、ここでは書名(『史記』天官書)を指すらしい
星宿:二十八宿の一つで、南方朱雀七宿の第四宿……のことらしいが、多分、ここでは星と星座のこと
山經:『山海経』。中国の地理書で、魑魅魍魎の類が開設されている。中国妖怪・霊獣のガイドブック
鼠、蟹、鑽、魚、蛇、象、駱、犀はプログラミング言語。オライリー本の表紙か何かからとっているのか。
- 作者:Mat Ryer
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2016/01/22
- メディア: 大型本
方知鬼之所以夜哭,天之所以雨粟。
かつて蒼頡(そうけつ)が書(文字)を作ったが、そのとき天は粟を雨のように降らせ、鬼は夜に泣いた(『淮南子』)
然以文言編程者 ,似所未有。此誠非文脈之所以傳,文心之所以保。嗟予小子,遂有斯志。然則數寸之烏絲猶覆於頭,萬卷之素書未破於手;一身長羁于远邦,兩耳久旷于雅言。
詩は苦手なのでパス。
然夫文章者吾之所宿好,程式者偶承時人之謬譽。故希孟不慚年少,莊生不望無涯。乃作斯言。
希孟:画家・王希孟。若くして亡くなった(享年23歳)が、『千里江山図』(18歳のときの作)などの傑作を残す。
莊生不望無涯:吾生也有涯,而知也無涯(『荘子』養生主篇)
誠未能嘔瀝長吉之心血,亦庶幾免於義山之流沫。
長吉:唐代中期の詩人、李賀。この人も短命だった。
義山:李商隱。『李賀小伝』を著した晩唐の詩人。
既成之後,復學干將鑄劍而自飼,越王嚐糞而當先。
干将:春秋・呉国の名工。莫耶は夫人。二人の名を冠した剣は、名剣として有名。びっくりなことに、当時は鍛造の技術がないので、鋳造(鑄)で作られたのだが、干将は亀文、莫耶には漫理(いずれも文様)が浮かんだという。
越王:勾践。呉王夫差に敗れる(会稽の恥)も、屈辱を忘れず(臥薪嘗胆)、のちに捲土重来して呉を滅ぼした。『越王勾践剣』が墓から出土する
自謂偶追《十書》之筆意,但恨少八家之淋漓。
算経十書:古代中国の数学書十種。唐代に数学者を養成する学校〈算学〉が設けられ、その教科書として使われた
八家:唐宋八大家のことか。唐代から宋代にかけての名文章家
此子山所謂士衡抚掌而甘心,平子見陋而固宜。
子山:南朝梁の詩人、庾信。梁の滅亡後、江北(西魏・北周・隋)に仕えることを余儀なくされた。代表作『哀江南賦』
然則雖實覆甕之質,尚存斧正之望;
西晋の陸機は「蜀都賦」「呉都賦」「魏都賦」という三都賦の制作を構想していたが、ブサメン左思がすでにそれにとりかかっていると聞く。「どうせ田舎者だから、できたとしても酒の甕のフタにしか役に立たんよ」と見くびっていたところ、“洛陽の紙価を高からしめる”出来にびっくりして執筆を断念する羽目になってしまった。斧正は他人に添削を乞うこと。同義語に「斧鉞(オノ・マサカリ)を加える」があるが、プログラマーは他人にマサカリを投げるのが好き。
雖乏呂相之金,易字之渴蓋同。此亦開源之大義,吾輩之所以勉勵也。一笑。
呂相之金:呂相は戦国・秦の丞相・呂不韋のこと(「奇貨居くべし」の人)。『呂氏春秋』という百科事典みたいなものを編み、「一文字でも易えることができたら千金をやる」(一字千金)と豪語した。