だるろぐ

明日できることは、今日しない。

『巡洋艦「大淀」16歳の海戦―少年水兵の太平洋戦争』

巡洋艦「大淀」16歳の海戦―少年水兵の太平洋戦争 (光人社NF文庫)

巡洋艦「大淀」16歳の海戦―少年水兵の太平洋戦争 (光人社NF文庫)

これまでも太平洋戦争の戦記物はいくつか読んでみたけど、これはその中でも読みやすいと思う。

劇的に表現しようとして言い回しが冗長になり、読みにくい……なんてこともない。また、特定の艦にフォーカスした戦記ではありがちな“迷子になる”こともまったくなかった。これまでの何冊かだと、よくわからない部分を Wikipedia などで調べて知識を補うという作業が必要だったのだが、この本ではそれが皆無。――むろん、自分が太平洋戦史に慣れてきて、時系列の把握や地理関係の把握がようやくできてきたというのも多少はあると思うけれど、この作戦がどういう目的のもとに行われ、どういう推移をたどり、どういう結果に終わったのかということがちゃんとほかの資料から補完してあって、分かりやすかったというのが大きいと思う。特年兵という少年の目線で艦隊生活が描かれているのも、実際に経験したことのない人間にとっては親近感が得られていい。

というわけで、この類の本を読み始める一冊目としてもいいかなと思った。ただ、そういう意味では「大淀」の登場がすでに太平洋戦争の終盤に差し掛かっているのが難だけど。

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「大淀」という艦に関していえば、これほど運のいい艦も少なかったのではないか。レイテ沖海戦で生き残り、無謀としか言いようのない礼号作戦(『第二水雷戦隊突入す―礼号作戦最後の艦砲射撃』 - だるろぐ)を乗り切り、日本海軍が最後に成功させた作戦・北号作戦にも関わった。しかも、呉軍港空襲で大破擱座するまで、大きな損傷を受けることもなかった(礼号作戦では爆弾の直撃を受けたが不発で、爆弾は不発処理を施したうえで艦内神社に祭られたという)。最後の連合艦隊旗艦を務めたことといい、数奇な運命としか言いようがない。

まぁ、こうやって生き残った人の戦記を読むと、自然に運の良い艦の話にばかり出会うことになる。弾薬庫直撃で真っ二つに轟沈した艦であれば、こうして生きて戦記を書く人もいないわけで。

――あと、あれだ、あれ。20.3cm の主砲なんか要らなかったんだよ! 重巡サイズに小さい砲を載せて、その分対空火器を充実させたほうがよっぽどよかったんだ!

“幻の兵隊”として存在が葬り去られていた「海軍特年兵」という存在について知ることができたのも収穫だったと思う。今でいえば高校生に上がるか上がらないかぐらいの年齢の少年が(志願制とはいえ)戦争に参加し、1/3 近くが戦死した。